メリゴ方式SSBを読み解く

野澤氏(JA2KAI)によるメリゴ方式SSB変調器については、当サイトでもアマチュア無線に思うで「コミュテーターでSSBを生成する方式」と紹介しています。

しかしながら、この方式はあまりに巧妙なので、回路ブロック図をみただけではにわかにSSBが生成されると信じることが出来ません。そこでブロック図から始めて、信号処理からの助けを織り交ぜながらこの方式を読み解いて見ましょう

ブロック図と生成される信号

メリゴ方式は図1のようにオーディオ帯域の位相シフトネットワーク(PSN)と、コミュテーターからなる回路です。これだけでSSBを作り出すことが出来ます。

図1 メリゴ方式による455KHz SSB変調器

このブロックから出力される信号は図2のようになります。

図2 メリゴ方式の出力信号

野澤氏は、このコミュテーターが回転する様、あるいは信号がI,Q,-I,-Qと繰り返す様をメリーゴーラウンドにたとえてこの方式を命名したようです。

信号を分解する

さて、図2のままではわかりにくいため、信号を分解してみましょう。幸い、アナログ電気信号ですからばらばらにしたところで、あとで足し合わせれば元の波形とスペクトルを取り出すことが出来ます。

まず、図2の信号をI系列とQ系列に分離しましょう。

図3 出力信号をI,Qに分離する

分離することで、I信号とQ信号が時間的にπ/2だけずれていることがはっきりとわかります。次にこの信号を無線信号風に電圧表現します。-Iや-Qは電圧が負の方向であるような表現方法です。

図4 電圧表現に変える

最後に、ちょっとばかり補助線を引いて見ましょう。

図5 補助線を引いて、矩形波をわかりやすくする

無線解釈を信号処理の知識で助ける

「お前、包絡線を忘れようとか言ってたよな」と凄まれそうですが、いや、違います。話をお聞きください。これは包絡線ではありません。図5の包絡線、じゃなかった、補助線はデューティーサイクルが50%のありきたりな矩形波(振幅は±1)をI信号に掛けたものです。同様に、90度ずれた矩形波がやはりQ信号に掛けられています。

似たような話を同期検波でも展開しましたが、矩形波は基本波とその整数倍の高調波しか含みませんから、低周波の信号に矩形波をかける、あるいは矩形波でチョップ(DBMがまさにこれ)するとは、低周波に局発をかけることに他なりません。単に高調波が増えるだけです。基本波の位相は矩形波の位相とおなじですから、ようするに点線で表される仮想的な信号はIQの被変調波に90度位相がずれた局発をかけるという、古きよきフェージング式SSB変調そのものであるとわかります。高調波が多いですが、BPFかLPFで取り除いてやればいいのです。清水氏(JA3DEW)が提案しているバタフライ方式がまさにこの方式です。

メリゴ方式とは、以上の矩形波によるPSN方式を少し変形して、掛け合わせる局発のパルス幅を狭くしたものと考えられます。このような場合も悩む必要はありません。信号処理の知識を使えばいいのです。どの信号処理の教科書にも、繰り返しパルスはパルス幅にかかわらず高調波の周波数は変わらないと書いています。単に高調波のエネルギーがパルスが短くなるほど増えていくだけです。

以上のことから、バタフライ方式のほうが効率が高いことが直感的にわかります。メリゴ方式は局発信号のパルス幅がバタフライ方式より狭く、より多くのエネルギーが高調波に割り当てられます。そして高調波はすべてフィルターで捨てられます。ですから、同じエネルギーを投入すれば、出力はメリゴ方式のほうが小さくなります。

まとめ

ばらばらにして読み解いてみれば、メリゴ方式の動作に不思議な点はありません。この方式の魅力は、直感的には動作しそうにない回路の魔術的な美しさにあるといえます。

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