ラジオ放送にはAM/FMという二つの形式があります。AM/FMというのは変調方式と呼ばれ、音声や音楽を電波に乗せる方法のことです。ここではAMについて考えてみましょう。
AM( Amplitude Modulation )はそのまま訳して日本語では振幅変調と呼ばれます。まずは変調の一般論をざっとさらってみましょう。まったく変調をかけていない生の電波を考えてみましょう。この電波を数式で表すと以下のようになります。
ここで
です。周波数fではなくfに2πをかけた角周波数ωを使うのは、単に記述が単純になるからです。ωとfは局面にあわせてわかりやすいほうを使います。
生の無変調波の場合、A、ω、θは定数です。無変調波というのは何の信号も乗っていませんから、どんなラジオで受信しても何も音は聞こえません。このようなこれから変調を加えるもとの信号を搬送波( Carrier )と呼びます。
さて、変調をかけるには上のA、ω、θのどれか(またはそれらの組み合わせ)を変化させることになります。振幅(A)を変化させれば振幅変調(AM : Amplitude Modulation)、周波数(ω)を変化させれば周波数変調(FM : Frequency Modulation)、位相(θ)を変化させれば位相変調(PM : Phase Modulation )です。
AM方式は送信機も受信機も構成が簡単だという利点があります。雑音に弱く簡単に妨害を受けてしまいますが、恐ろしく簡単なラジオでも受信できますので地震や台風のときの社会基盤として考えると今後も中波AM放送がなくなることはないでしょう。AMにはいくつかの亜種があり、プロ用あるいはアマチュア用の長距離通信に使われています。
FM方式は音がきれいで雑音に非常に強いことが利点です。音楽主体のFM放送に使われていることはよく知られています。また、雑音に強いことからタクシー無線など移動局によくつかわれました。FMの弱点は比較的広い周波数を占有することや、AMの亜種にくらべると送信機の効率がわるいことなどがあります。
PMはやや特殊な変調方式です。FMとのあいだで簡単に変換ができるうえに性質がFMに似ていることからあまりメリットを感じられず、アナログ通信では使われていません。しかしディジタル通信技術との相性がいいため、現在のディジタル変調の多くがPMを活用しています。
振幅変調はその名のとおり搬送波の振幅を変化させて変調を行います。変調信号が正弦波の場合は下の式のようになります
ここで
S(t)の振幅は1であると仮定しています。変調度mは変調の深さです。変調信号に1を足しているのはDCのバイアスを与えることを意味します。数式だと一発なのですが今ひとつ直感的にわかりにくいので図で見てみましょう。図1に搬送波、図2に変調信号を示します。いずれも横軸は時間、縦軸は振幅です。中波放送の場合搬送波の周波数は500KHzから1600KHzくらい、変調信号は5KHzくらいまでですから周波数は下の図のばあいよりはるかに大きな差があります。図は説明用だと考えてください。
図1 搬送波
図2 変調信号
実際に振幅になるのは変調信号S(t)ではなく、1+mS(t)です。mは変調度とよばれ、普通は変調の「深さ」であると理解されています。この方式で被変調波は図3のようになります。
図3 振幅変調の結果
図3を見ると、もともとの搬送波の振幅にうまく信号が乗っていることがわかります。振幅変調による被変調波このように波形を目で見て簡単に理解できるのが特徴です。波の先端を結んだ線(図3では緑色)は包絡線( Envelope )と呼ばれ、変調信号と同じものになります。
変調度mを大きくすると、被変調波の包絡線の振幅が大きくなり、AM信号自身のくびれの部分が狭くなります。一般に深く変調をかけると、送信電力のうち多くの部分が信号に割かれるようになるため効率があがります。つまり同じ電力ならば遠くでも受信できるようになります。しかし変調を深くすると雑音に弱くなるという欠点もあるため、mの選び方は慎重を要します。図3では変調度mは0.8です。mが0.5のときの波形を図4に示します。
図4 変調度m=0.5のときの波形
振幅変調方式は目で見て直感的に理解できる簡単な変調方式です。次回はこれを復調(検波)する簡単な方式を紹介します。
⇒次は包絡線検波