ウェーバー方式のイメージ抑圧受信機について調べる過程で、多くのアマチュア無線サイトを訪れました。20年以上前に局免許を返納した私にとっては久々の分野でしたが、まったくこれほど驚くことになるとは思っていませんでした。
アマチュア無線が凋落しているのは紛れもない事実です。かつては趣味の王様などと喧伝されていたものの、圧倒的な市場めがけて次々供給されるディジタル家電群の前には馬鹿高いトランシーバーなど立ち向かえるまでもなく、私の学生時代にわが世を謳歌していたアマチュア無線メーカーは今やわずかな機種を細々と売るのみです。一時は不足が深刻だったコールサインも今は返納したものを再取得できるとか。
一方で、メーカー製の無線機に押されていた自作派が息を吹き返しています。高齢化が進んでいるのが寂しいところですが、交信主体の局が大量に消えた結果、自作派の相対的な勢力が増えているようです。また、周波数帯も混雑がなくなったため少々おおらかな無線機でも通話できるようになったようで、省電力の簡潔な送信機を作って楽しんでいる方が多くいらっしゃいます。
もう、新しいことなどないだろうと以前は思っていたので、フェージング式SSB変調に進展があったのにはびっくりしました。まず、オーディオ帯の位相シフトネットワーク(PSN)が、私が知っているものより格段に複雑かつ精緻なものになっています。いい例がHarry's Homebrew Homepageの中のPhasing Type Exciterにあります。かつて「アマチュアのSSBハンドブック」で見たPSNはいかにも位相ずれがありそうな単純な回路でしたが、ここに紹介されているのは構造美すら感じさせるものです。そしてその出来上がり回路も整然としたたたずまいを見せてくれます。
またPSNのミキサー側も日本でメリゴ(メリーゴーラウンド)と呼ばれる方式をJA2KAI 野澤氏が開発され、広く使われています。メリゴ方式は、フェージング方式のI/Q局発を矩形波で作った場合、掛け算器を省略してコミュテーター1個でSSBを生成できるという非常に巧妙な方式です。
メリゴ方式のSSB変調器を見て思うのは、つくづくハードウェアとは美しいということです。私は強い分野がソフトウェア寄りなのでどうもハードウェアをいじるとなると腰が重くなってしまいます。しかし、作ったものが実体として見え、その美を追求していけるというのは趣味としてのハードウェアがソフトウェアに対して持つ強力な強みのように感じます。
いまさら私がアマチュア無線を再開することは無いと思いますが、凋落したがゆえに趣味として一段上になった風のあるアマチュア無線を見るにつけ、いっちょ自分も何かしようかという気になります。
なお、当サイトでもウェーバー方式のSSB変調器を組んでみました。