SHARPの電卓、EL-210の解析シリーズです。
年末はご多分に漏れずあれこれ忙しくしていまいた。正月になってようやくハードウェアを触る余裕が出てきました。
EL-210はマトリックス式のキーボードを持っています。このマトリックスを解析するにはスキャン信号をいれつつ適当なキーを押し、キー入力をプリントして読むのが一番手っ取り早い方法です。キー・マトリックス出力はディジタル信号ですので、マイコンで読めばすぐに結果が出ます。
と、そうは問屋が卸しません。
EL-210のICであるSHARP製LSI LI2026Aはピンを節約するためにキースキャン信号をVFDの桁ドライブ信号と兼用にしています。これは当時の設計としてはごく一般的なものです。問題は電圧です。VFDの桁ドライブ信号は25V程度の振幅を持っており、そのまま与えれば確実にマイコンを破壊します。
また、LI2026Aは負電源で動いており、電卓内部ではGNDに対して負の電圧でシステムが組まれています。面倒ですが、この辺を調整してやりながら信号を読む必要があります。結局、電卓の最も低い電位をマイコンのGNDと接続し、キー・マトリックスの出力を抵抗分割した信号が、以下の写真に示すものです。当然ですが、比較的綺麗な矩形波になっています。
グラウンドが跳ねていますが、これはおそらくは電卓から引っ張り出したケーブルが長いためです。キー・マトリックスの読み込みプログラムをサクッと書いて、解析は無事終了しました。
なお、ブレッドボードはキー・マトリックスの抵抗分割のほかに、同時押し対策として保護ダイオードとプルダウン抵抗を実装しています。LI2026Aはこれらの回路を内蔵しているらしく電卓本体には保護ダイオードがありません。表示機と電源回路以外はすべて内蔵しており、SoCを先取りするような設計になっています。
逆に言えば、このDIP LSIを使った電卓を勢増するには何のノウハウも必要としません。つまり誰にでも作ることが出来るため、価格以外の競争点を作り出せません。1980年当時、SHARPはEL-210を最初から韓国での組み立てとして手配しています。バブルへ向けて賃金上昇が続く日本国内の生産では利益を上げられなかったのでしょう。