ちょっと前にミックスド・シグナル回路の一点アースがわからないという話がツイッターで話題になっていました。これは誰もが言うとおり面倒な問題です。
私が見た、最初のツイートはこれ。
ミックスド・シグナル回路において基板内外でAGND/DGNDをどう接続するかについては、Analog Deviceのミニ・チュートリアルに非常によい文書があります。基礎についてはこれ一本で概観できるでしょう。
- MT-031 データ・コンバータのグラウンディングと、「AGND」および「DGND」に関する疑問の解消
- MT-031 Grounding Data Converters and Solving the Mystery of”AGND” and “DGND”
さて、この後のツイートに私も書いていますが、一点アースと言う言葉を振り回すことに問題があります。きちんとした文献を持っていませんが、もともとは一点アースとは真空管時代からの回路の引き回しの話だったはずです。真空管回路は実装サイズが大きいため、各真空管回路で信号グラウンドを直近のシャシ・グラウンドに落としてしまうと、問題が起きます。
というのは、シャシを流れる電流は経路を制御しにくいため、信号グラウンドを電流がコントロールできない形で流れます。そうすると、大電力増幅器の信号グラウンドを流れる電流が低雑音増幅器のグラウンドを揺さぶるといったことがおきます。そのため、きちんとコントロールできる形で信号グラウンドを配線し、そのうえでシャシ・グラウンドに対しては「一点で」落とすのです。これが一点アースです(繰り返しますが文献を持っていません)。
「コントロールできる形」というのも難しい表現ですが、アンプの場合基本的に信号電流が広く外に流れないようにすることが原則です。あるいは電流が流れてもグラウンドの共通インピーダンスが小さければ問題を小さくすることができます。こういったことがグラウンドのデカップリングと呼ばれるものです。この点、差動増幅器は原理的にグラウンドに信号電流が流れない優れた回路です。
グラウンド・プレーンを基板上に持つディジタル回路の場合、実はシャシ・グラウンドにあたるものが基板のグラウンドそのもにであるということは、容易に想像できます。ですので、アナログ系とデジタル系のグラウンド電流が交じり合わないようAGNDとDGNDに分けてデカップリングを図るのです。
一方で、ADCやDACのようなミックスド・シグナルICの場合、IC内部でアナログ部からデジタル部、あるいはその逆に電流が流れることは避けられません。この信号も最終的にはGNDに流れます。ミックスド・シグナルICをきちんと動かすにはこの信号電流も外部からデカップルすることが必要で、それゆえにミックスド・シグナルICの場合はIC直近でAGNDとDGNDを接続することが大事になります。当然ですが、信号電流がGNDを流れて遠くに行かないようするために、各ICにバイパス・キャパシタをつけます。
すこし複雑な回路だと基板上のミックスド・シグナルICは一つではすみません。したがってAGNDとDGNDを「一点で接続する」ことは、ちょっと回路が複雑になると大きな弊害を呼ぶことになります。
AGNDとDGNDの共通インピーダンスについてはローカル・レギュレーターを両電源とも基板上に持つことで解決できます。しかしながら、これは基板上の問題を解決するだけで、基板間の問題は解決しません。また、機器間の問題も当然あります。
機器間のグラウンド・ループといった問題は、80年代にCQ出版社の出版物でよく読んだ記憶があり、その後の仕事で大きく役立ちました。
レイアウトをきちんと行うには、どこをどのような電流が流れるか考えながら作業するしかありません。信号電流は電源から供給されそして信号は必ずGNDを通って帰ってくることを肝に銘じなければなりません(繰り返しますが、この点差動増幅器、差動信号は優れています)。
この視点について上のツイートに対するコメントをたどると、よい資料を紹介されている方がいらっしゃいます。
マキシムの『チュートリアル5450 ミックスドシグナルチップを使用するPCBの適切なグランド処理 – 最小インピーダンスの経路をたどる』は、回路を流れる電流に着目してレイアウトの方法を説明しており、わかりやすいです。
レイアウトの問題には解がないように思え、結局は考え続けるしかないようです。